グローバル産業用ロボットのABBが、2021年7月にスペインの自律移動ロボットメーカーであるASTIの買収契約にサインした。一連の取引は、今年の夏中に完了する見通し。

工場や倉庫向けの自律移動ロボットを展開するASTI

今回ABBに買収されたASTIは、1982年に創業のスペインの企業である。スペイン、フランス、ドイツにも拠点を有し、全体で300人以上の従業員を擁している。ヨーロッパで豊富な実績を持つAMR(Autonomous Mobile Robot:自律モバイルロボット)を展開しており、20か国にまたがって、自動車・ロジスティクス・食品/飲料・医薬品などの幅広い顧客基盤を保有している。

ASTIの業績は順調に成長している。2015年以来、右肩上がりの成長を続けており、年間30%近くの成長を毎年実現する。2021年には約5,000万ドル(約55億円)の売上を目標としていた。

ASTIの無人搬送車は、工場や倉庫環境内で人間や手動トラックと共存し、作業環境内を安全に移動する協働ロボットとして設計されている。ロボットに搭載された磁気アンテナは床に貼られた磁気テープを読み取り、なぞって走行したり、車載カメラやレーザーを使って経路を判定することができる。

ABBのネットワークを使って中国市場を新規開拓

今回の買収により、ASTIはABBのAMR事業本部として参画する。そして、この事業本部を率いるのは、ASTI社のCEOであるASTI社のPascual Boé氏だ。

研究開発、エンジニアリング、製品、プロジェクトのバリューチェーンなどの中核機能は、ASTI社の施設で活動を継続し、ABBにおけるAMRの事業活動の中核を担う。

ABBは、AMRの生産能力を大幅に拡大し、欧米で計画されている販売拡大を、同社のチャネルを使ってサポートする。また、中国市場の新規開拓を狙う。世界最大のロボット市場である中国は、2025年までに年間18億ドルのAMR売上を占めると予測されている。2022年に上海に開設されるABBのロボット工場内に、製造機能を含むアジアAMRハブを設立し、ABBのネットワークを活用して中国市場を開拓する。

ASTIは今後の研究開発についても発表

ASTIは今月、今後2022年までの研究開発の方向性についても発表をしている。

同社のAMRにおいて、欧州連合の欧州地域開発基金(ERDF)とカスティーリャレオン地方政府が、ビジネス競争力研究所(ICE)を通じて資金提供したプロジェクトとして、以下のテーマでR&Dを行う。

  1. AGVの効率向上のための新しいストレージシステムとモーターの研究

多くのAGVでは現在ブラシ付きDCモーターが使用されている。これは安価でシンプルな技術ではあるが、発生する熱を放散する方法、ブラシの火花を処理する方法、機械的摩擦による高度な摩耗など、いくつかの改善点があるという。

ASTIは、可変リラクタンスモーターやブラシレスモーターなどの高効率モーターのAGVへの適用性に関する研究を行う。また、AGVを小型化し、より効率良くエネルギーを貯蔵するためのストレージシステムについても探索する。

2. AGV、人、およびマシン間のコラボレーションと高度なコミュニケーション

AGVの作業スペースでは人や他のマシンも存在しており、インダストリー4.0において、柔軟で協調的なマシンに対するニーズが高まっている。AGV・人・マシン要素間のコミュニケーションの代替方法を研究していく。

3. 産業環境向けのAGVの高度なナビゲーションと管理

これまでは作業環境内で、人工的にマークされたものをセンシングすることで、経路判定などが行われてきた。一方でインダストリー4.0の登場は、作業環境内がより柔軟に変化し、従来の経路判定システムとの互換性が無くなってきている。そのため、自動運転技術の適用による、スケーラビリティと信頼性の向上を狙う。

 

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ー 技術アナリストの目 -
従来、産業用ロボットを中核としているABBが、工場や倉庫における自動搬送ロボットという周辺領域にも力を入れるようです。ASTIは特にヨーロッパで実績が豊富であり、現在急成長中でもあるため、ABBのネットワークとリソースを活用することで、更に成長にはずみがつくことが想定されます。ASTIのCEOも強調しているのが中国市場であり、これまで同社単独ではネットワークが薄かったところ、ABBの傘下に入ることで中国市場をどのように開拓できるのか、今後要注目です。

【世界の自動搬送ロボット・AGVの技術動向に興味のある方】

世界の自動搬送ロボット・AGVベンチャーのロングリスト調査や、実用化動向調査、最先端の協調ロボットに関する研究開発の取り組みなど、技術調査に興味がある方はこちらも参考。

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