脳卒中治療技術・デバイスを開発しているイスラエルのベンチャー企業であるBrainQが、新しい資金調達ラウンドで40m$(約44億円)の資金を調達したことを、8月16日に発表した。

今回の資金調達ラウンドでは、Hanaco Venturesがリードインベスターとして主導し、Dexcel Pharma、Peregrine Ventures、そして既存の投資家も参画した。今回の資金調達によって、BrainQがこれまでに集めた総資金額は50m$となっている。

非侵襲の神経治療デバイスを開発中

BrainQが開発しているのは、脳卒中によって損傷する神経機能を修復するための、非侵襲の神経治療デバイスである。

脳卒中は、WHOによると世界の死因の第二位であり、世界の疾患人口は600万人を超える1)。BrainQによると米国だけでも毎年80万人が罹患している。患者は、脳卒中後の数日から数週間の間で、脳の損傷した神経経路を修復し、機能を回復するために新しい神経経路を開発しようとするが、多くの場合、成功は限られている。結果として、脳卒中後の生存者の約50~70%が慢性障害を持ってしまうという。

BrainQが開発しているデバイスは、脳波から取得される洞察に基づいて、周波数調整された超低周波および低強度の電磁界(ELF-EMF)を発生し、外部から磁場で刺激を与えることで神経回復プロセスを促進する。人工知能(AI)を搭載した同社が開発したデバイスは、各患者に合わせて電磁界特性を調整することができる。また、このシステムは、アプリを介してリモートでモニタリングすることを可能にする統合遠隔医療ツールと接続することができる。

FDAのブレークスルーデバイスに指定

BrainQのデバイスはFDAのブレークスルーデバイスに指定されている。虚血性脳卒中患者に対するBrainQの最新のランダム化比較臨床試験の結果に基づき、2021年2月に取得した。

ブレークスルーデバイスは、FDAの医療機器認可を得る前に、未認可であるが有望な技術に対してFDAが指定するもので、医療機器認可の取得に向けてFDAから支援を受けることができるというものである。近年、複数の治療のための神経刺激デバイスがブレークスルーデバイスの指定を受けており、BrainQのようなデバイスはポテンシャルのあるデバイスとして注目を集めている。

なお、FDAのブレークスルーデバイスについてはこちらも参照。

参考:【特集】デジタルヘルスケア領域のベンチマークとして重要な米国FDAについての解説

元メドトロニックのエグゼクティブもジョイン

また、今回の資金調達に伴い、同社は経営層も強化している。

BrainQは、今回、新しい取締役会メンバーに、米国を拠点とする超音波を使ったポイントオブケアを実現するButterfly Networkの最高商務責任者(Chief Commercial Officer)であるStacey Pugh氏を追加した。Stacey氏は最近まで、メドトロニックの神経血管事業のSVP兼社長であった。

 

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
上記でも触れていますが、デジタル治療のための神経刺激デバイスが多数ブレークスルーデバイスに指定されており、各ベンチャー企業が臨床試験を続けています。同分野は今後の治療領域として有望視されており、この数年で臨床試験のデータがまとまり、FDAの医療機器認可を得ることが期待されます。BrainQのように磁場を使った治療では、他にはアルツハイマーの治療を狙ったデバイスなども存在しており、今後の実用化動向は注目です。

【世界の神経刺激デバイス技術の動向に興味がある方】

世界の治療・リハビリ向けの神経刺激デバイスの技術開発動向、ベンチャー企業や大学研究機関のロングリスト調査などに興味がある方はこちらも参考。

詳細:先端技術調査・リサーチはこちら


参考文献:

1) 公益社団法人 日本WHO協会Webサイトより(リンクはこちら