グローバル・ブレイン株式会社が運営するファンドの「KIRIN・GB投資事業有限責任組合」が、うつ病治療の臨床グレードホームケアデバイスを開発するFlow Neuroscienceに出資をしたことを発表した。

ヘルスケア領域に投資をするキリンのCVC

KIRIN・GB投資事業有限責任組合は、KIRIN HEALTH INNOVATION FUNDという、キリンがグローバル・ブレインと設立したファンドで、キリングループとの協業が見込めるスタートアップや、ヘルスサイエンス領域のスタートアップへの投資を行っている。

2020年3月に組成されたCVCで、総額は50億円のファンドとなっている。

他にも、2020年には腸内細菌由来のアレルギー予防薬・治療薬の開発を行うSiolta Therapeuticsへ出資を行ったり、2021年5月にデイサービス介護事業所向けSaaS型業務支援ツール「リハプラン」を展開するスタートアップのRehab for JAPANへ出資を行うなど、積極的に投資活動を行っている。

うつ病治療のホームケアデバイスを開発するFlow Neuroscience

今回キリンのCVCが出資をしたFlow Neuroscienceは、スウェーデンのスタートアップで、うつ病治療を行うための臨床グレードホームケアデバイスを開発している。ヘッドセット型のデバイスであり、脳に外部から神経刺激を与えることで、うつ病の症状を緩和する、というもの。

同社が開発したアプリに加えて、このデバイスをおおよそ1回あたり30分の刺激を1週間に2~5回程度の刺激を加えることを、6週間続けることで、うつ病症状を緩和することができるとしている。経頭蓋直流刺激(tDCS)という技術がベースになっており、頭蓋の外から1mA程度の微弱な直流電流を与えるものだ。この方法自体はリハビリ領域などで盛んに研究されている。

同社公開の動画への直リンク

(補足)ちなみに、日本でも精神科医でこのtDCSを治療方法の1つとして採用している病院もあり、医療行為として認められている。一方で、家でも手軽に行うことができる治療であることから、日本臨床神経生理学会からは脳神経刺激を安易に利用することに対しての注意喚起もされている1)

このウェアラブルデバイスによる神経刺激の領域は、現在様々なベンチャー企業が開発を進めており、Fisher WallaceやNeoRhythm、BrainQ、hummなど、デジタルヘルスに限らず、ウェルネス領域や、学習効果を高めるものなど、様々登場している。

参考:脳神経刺激でうつ病治療をサポートするFisher Wallaceがクラウドファンディングで2.6m$を調達

参考:脳に神経刺激を与えることで睡眠改善やリラクゼーションを行うデバイスNeoRhythmがリリース

今回キリンのCVCが出資をしたFlow Neuroscienceは、臨床グレードを指向しており、既にCEマークを取得し欧州で販売を開始している。現在すでに2,000人以上に利用されており、利用者の85%の患者の気分が改善し、30%が寛解(全快ではないが、症状が治まって穏やかな状態)という結果が確認できているという。

 

Flow NeuroscienceのHPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
神経刺激デバイスは、FDAのブレークスルーデバイスでも多数指定されている次の有望分野として注目されていますが、特に脳に刺激を与えるタイプのものは、まだ安全性の検証などが研究途上であることも多く、医療機器認可を取得するような臨床グレードのものでないと、大手企業が担ぐにはやや信頼性・安全性に不安があります。Flow Neuroscienceは臨床グレードを指向しており、こうした医療グレード指向を持ったベンチャーはこの分野では特に有望となるでしょう。

【世界のうつ病・メンタルヘルス治療技術動向に関心がある方】

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参考文献:

1) 一般社団法人日本臨床神経生理学会、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)についての注意喚起, 2019年(リンクはこちら