窒化ガリウム(GaN)半導体デバイスを開発するイスラエルのベンチャー企業VisICが、シリーズFで35m$(約38億円)の資金調達を実施した。

今回の資金調達は、Fast Semi Corporationを通じて、Golden Sand Capital (金沙江资本)とHG Semiconductors(宏光半导体)が主導する資金調達ラウンドで実施された。今回の資金調達は、増加する自動車顧客からの強い需要をサポートすることが目的となっている。

期待されるGaNベース半導体デバイス

VisIC Technologiesは2010年にイスラエルで設立されたベンチャー企業である。台湾のTSMCとも連携したGaN製造プロセスを開発。主に自動車用GaNデバイスを提供している。

GaNは窒化ガリウムをベースとした半導体パワーデバイスで、次世代の半導体デバイスとして注目されている。海外の調査会社によると1)、GaNパワーデバイスの市場規模は2019年に1億130万ドル、2027年までに12億4490万ドルに達し、実に11倍にも成長する。

一般に、GaNデバイスはノーマリーオフのDモードとノーマリーオンのEモードという2つの種類の技術軸がある。

従来のSi MOSFETや、Si IGBTは基本的にはノーマリーオフ動作と言われ、ゲートに入力信号がない場合にオフの状態となっている。一方でGaNデバイスに用いられるHEMT構造は、ノーマリーオン動作となっており、ゲート電極に負電圧を印加しなければオフにならない。なんらかの不具合でゲート電極に負電圧が印加できないと危険な状態になってしまう。

そこで、ゲートにP型GaNを形成することでGaN HEMTをノーマリーオフにしたEモードと、GaN HEMTとノーマリーオフの低耐圧シリコンMOSFETをパッケージ内で組み合わせたDモード(カスコードタイプ)が主に存在している。Eモードはスイッチング特性に優れ、産業用途やコンシューマー向けで実用化され、複数の半導体メーカーで提供している。しかし、Eモードでは高電圧でのオン抵抗や、電気自動車の急速充放電で求められるような高電圧対応が難しい。一方で、Dモードのカスコードタイプは、スイッチング抵抗ロスが大きくなるという課題もある。

VisIC Technologiesが開発している技術はDモードの一種であるダイレクトゲート駆動という方式であり、カスコード構造が持つスイッチング特性の損失を解決する。

同社の技術は高電圧・高電流に対して高効率であり、400V向けでの信頼性が高く、コンパクトで効率的なソリューションを提供するEV市場向けに開発された。現在は800V向けの更なる高電圧領域に向けた開発を進めていることを発表している。

 

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ー 技術アナリストの目 -
先に実用化はSiCが大きく進んでいますが、更に中長期ではGaNもやはり有望な技術であり、GaN半導体デバイスベンチャーの資金調達という動きは興味深いニュースです。現在VisICは自動車関連企業での評価・テストを行っているということですが、最近の講演の動きや、今回の出資の動きも見ていると、中国市場の開拓を狙っているようにも見え、先に中国で採用されることになるのか、その動向が注目されます。

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参考文献:

1) 2020年から2027年にかけて35.4%のCAGRで上昇するGaNパワーデバイス市場の機会, Report Oceanプレスリリース(リンクはこちら

2) CoolGaN™ ‒ 新しいパワーのパラダイム, Infinion(リンクはこちら

3) GaN 系半導体デバイスの技術開発課題とその新しい応用の展望, 国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター(リンクはこちら