自動運転やEVの話題が良く取り上げられることが多いが、コネクテッド・V2Xの実証実験も世界中で進んでいる。

CASEにおいて様々なインフラやアプリケーションと繋がり新しい価値を生み出すこのコネクテッド・V2Xの領域で、米国ミシガン大学発の「Mcity」という取り組みを紹介する。

コネクテッド・V2Xの実証プラットフォーム

「Mcity」はコネクテッドで自動化された車両の新しい世界への移行をリードするために設立されたミシガン大学主体の研究センターである。

2015年に設立されて以来、モビリティソリューションでパートナーシップを締結する業界パートナーは25機関(社)、研究開発・実証プロジェクトに投じられた研究費は28.2m$(約31億円)、そして2017年以降のMcityでの車両テストを行った時間は7,000時間と、世界をリードするコネクテッド・V2Xの研究テストベッドである。

同分野における産学連携のプラットフォームと言うこともできるだろう。

Mcityのパートナーには、Leadership Circleという3年間で100万ドル以上を投資する、アクティブな企業と、Affiliatesというよりフォーカスされた領域で投資を行うメンバーに分かれている。なお、Leadership Circleは、日本からトヨタ・ホンダ・デンソー、米国のFord、Verizon、そして自動車保険のState Farmが含まれる。

ラボから実装でのR&D初期段階での活用

このMcityは、ラボ(またはシミュレーション)から実際の車両での初期テストにおける活用を想定した、テスト施設を運営している。パートナー企業はこのテストを施設のインフラにアクセスし、活用することができる。コネクテッドな自動運転車を公道、道路、高速道路に配備する前に、安全で制御された環境で新技術をテストするものだ。

このテスト施設は16エーカー以上の道路と交通インフラで構成されている。16エーカーというのは約6.4万m2であり、東京ドームのおおよそ1.3個分となる広大なエリアだ。この本格的な屋外実験室は、都市および郊外の環境で車両が遭遇するさまざまな複雑さをシミュレートすることができる。

M Cityの様子

施設全体には様々な計装・センサーが備わっており、ワイヤレス、光ファイバー、イーサネット、および高精度のリアルタイムキネマティックポジショニングシステムを使用し、交通活動に関するデータを収集するための制御ネットワークが含まれている。また、施設全体で接続された5Gネットワ​​ークとVehicle-to-Everything(V2X)通信もどこでも活用可能だ。

また、いわゆる乗用車の走行だけを想定しているのではなく、ファーストマイル/ラストマイルのテスト、配達、ライドヘイリングのためのアクセシビリティランプを備えた家とガレージでは、モビリティサービスとしてのロボット配送のテストを行うことも可能だ。

OS化してプラットフォームとして横展開を図る

個々の企業が行っている実験については、完全クローズドで行われており、基本的には社外秘で実証が行われている。しかし、Mcityが興味深いのは、このコネクテッド・V2Xのテストベッドという仕組み自体をOS化し、ナレッジ・システムを横展開していることだ。

ミシガン大学のMcity自動運転車研究センターのエンジニアチームによって開発されたMcity OSは、ユーザーが誰でも簡単に、すぐさま、自動運転やV2Xのシナリオを作成し、実行することができる環境を実現する。

Mcity OSの様子

これは非常に活気的な取り組みだ。なぜならば、通常こうしたV2Xやコネクテッドの屋外実験を行うには、これらセンサーやデータを扱うことができる専門性を持った人員が、時間をかけてシナリオをセットする。しかし、道路の実験環境は複雑さを増しており、再現性を持たせることは簡単ではない。この費用と時間のかかるプロセスを標準化し、アプリケーション上で、自由にシナリオを組み、そして実験結果のデータを利用することができるのがMcity OSだ。

Mcityのホワイトペーパーで、McityのアソシエイトディレクターであるGreg McGuire氏はこう述べている。

「将来の車両は、現在の車両よりもはるかに能力が高く、動作が複雑になるでしょう。テスト施設は、能力の観点から、将来の車両と一緒に発展しなければなりません。スマートカーをテストする不要なテスト施設を持つことはできません。」

このMcity OSは2021年1月に、初めてMcity外部の利用のためにライセンス供与された。相手はAmerican Center for Mobility(通称ACM、産官学のコンソーシアムであり、スマートシティやコネクテッドされた自動運転の研究・テストを行う組織)である。

ミシガン州南東部に位置するAnn Arborの約15マイル東にある、ACMが保有する500エーカーの広大なスマートモビリティテストセンターで利用するという。

 

McityのHPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
Mcityの取り組みで非常に興味深いのは、そのテストベッドとしてのスケーラビリティです。OSでテストベッドでのシナリオ構築やデータ取得を標準化し、そして横展開するという流れはミシガン大学という1つの研究機関を超えて、将来、コネクテッド・V2X実証のOSとして企業としてスピンオフされてもおかしくないと感じます。さらに興味深い考え方は、Mcityは、自動運転やコネクテッドの技術進展とともに、実証フィールドも進化しないといけないと考えていることです。日本ではこうした実証は個々の企業や自治体がバラバラに動いていますが、このように「進化する次世代自動車の実証インフラ」を実現するには、優れたビジョンを持った専門機関が、腰を据えて取り組まないと難しいでしょう。日本が参考にすべき点が多く含まれています。

【世界のコネクテッド・V2Xの技術動向に興味がある方】

世界のコネクテッド・V2Xの技術開発動向、ベンチャー企業のロングリスト調査、世界のプロジェクトのベンチマーク調査などに興味がある方はこちらも参考。

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