硫化物系電解質、そして全固体電池を開発しているSolid Powerが、米国コロラド州で2か所目となる生産施設を追加することを発表した。

Solid Powerは今年5月にフォードとBMWからシリーズBで130m$の出資を受けたことで話題となり、SPACスキームで新興市場のナスダックに上場する手続きが進んでいる。

参考:BMWとフォードが全固体電池ベンチャーのSolid PowerのシリーズBに参画

参考:全固体電池のSolid PowerがSPACで上場し、最大約560億円の資金を調達

開発ロードマップ上は現在Pre-A Sampleフェーズ

同社は全固体電池の開発ロードマップを発表しており、現在は固体電解質の開発を行うとともに、シリコン負極を使った固体電池セルとリチウム金属負極を使った固体電池セルのPre-A Sampleを開発しているフェーズとなっている。

なお、2022年には正式な自動車認定試験用に、最初の100Ah大判セルのA-Sampleを製造・提供する計画だ。

(ロードマップの詳細は上述の過去記事で整理しているので、知りたい方は過去記事を参照)

硫化物系電解質を年産30t規模へ

そうした中、今回同社が開発を進める硫化物系電解質の生産規模を、年産30t規模へ拡大することが発表された。これは、現在の能力の25倍のスループットの増加に相当する。なお、工場が稼働するのは2022年第二四半期の予定だ。

同社工場でスケールアップして生産される硫化物系電解質材料は、Solid Powerの今後の自動車向けでの認定試験や、将来のバッテリーパックの設計用のセルサンプルを生産する目的で、利用されるという。

また、同社は現在電解質の開発からセルの開発まで手掛けているが、将来的に必ずしも電池セルの生産を全て自社で行うことを前提とはしていない。

長期的には、Solid PowerはFordやBMWの他の電池パートナーが本格的な全固体電池セル生産行う際に、同社独自の硫化物ベースの固体電解質材料を販売していく予定だ。

硫化物系電解質は、酸化物系の電解質に比べてイオン伝導率が高いため、現在電気自動車向けでは主流とされている材料である。日本でも、出光興産が全固体電池向けの硫化物系固体電解質の量産に向けて、実証用の生産設備を建設すると、2020年2月に発表している。

(補足)ただし、Solid Powerはセル開発まで自社で主導することを前提としており、素材の組み合わせなども考慮しながら固体電解質の開発を進めることができるのに対し、出光興産は材料のみであることから、ビジネスモデルが異なる点は注意。

 


ー 技術アナリストの目 -
トヨタも先日、電池戦略を発表して今話題になっていますが、全固体電池の実用化にはまだ時間がかかり、また固体電解質自体の開発も継続することを発表しています。現在出せる特性を踏まえて、トヨタはまずはHEV車から搭載するということですが、このように、本当に数年後にEV向けでリチウムイオン電池を超えるスペックを出せるかどうかはまだ不透明です(LIB自体もSiアノードなどで開発が進んでいます)。Solid Powerの全固体電池開発も、まずは100Ahという大判セルが本当に実現できるのか、この1年の開発状況は要注目です。

【世界の全固体電池技術に興味がある方】

世界の全固体電池ベンチャー、固体電解質を開発するベンチャー・大学研究機関のロングリスト調査や、技術動向調査などに興味がある方はこちらも参考。

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