リチウムイオン電池向けのシリコンベースの負極材を開発するSila Nanotechnologiesが、同社の材料がウェアラブルデバイスWHOOP4.0の電池に搭載され、ついに市場投入されたことを発表した。

電気自動車向けでダイムラーと開発を進める

Sila Nanotechnologiesはリチウムイオン電池向けのシリコンベースの負極材を開発しており、電気自動車の用途でダイムラーと共同開発している。2019年にダイムラーから170m$の出資を受けるなど、両社の関係は深く、電気自動車用途は本命のアプリケーションとして開発が進められている。

一方で短期的には2020年末までに消費者向けデバイス・家電製品に導入される見込みであることが、2019年のシリーズEの資金調達ラウンド時に発表されていたロードマップであったが、その後具体的な発表が無い状況であった。

詳細はこちらの過去記事参照:リチウムイオン電池向を大きく改善する可能性を秘めたシリコン負極材を開発するSILA Nanotechnologies

ついに実用化、最初の用途はウェアラブルデバイス

今回、ついにその実用化について発表され、ウェアラブルデバイスWHOOP4.0に搭載された電池に同社材料が使われたことが明らかになった。

ウェアラブルデバイスWHOOP4.0は、デジタルフィットネス・コーチングを提供するベンチャー企業のWHOOPが提供している最新デバイスである。このデバイスについては、WHOOPから9月8日に発表されたばかりだ。

WHOOP4.0に搭載された電池は、エネルギー密度が従来の電池に比べて17%高いながらも、5日間のバッテリー寿命と、より小型の電池を実現している。WHOOP3.0に比べて、4.0ではデバイス自体のサイズを33%縮小することに成功したという。

またSila Nanotechnologiesは、WHOOPのバッテリー製造パートナーが、既存の製造プロセスを変更することなくSilaの材料を活用することに成功したことも明らかにした。

(補足)多くのシリコン負極材を開発しているベンチャー企業は、ドロップイン(Drop-in)であり、既存の製造プロセスを変更することなく、簡単に電池に組み込むことができるとアピールしており、Silaの材料は実際にドロップインが可能であることが示された形だ。

なお、Sila Nanotechnologiesによるプレスリリースでは明記されていないが、MIT Technology Reviewによると、シリコン負極材の利用は、従来のグラファイト材料を100%置き換えたわけではなく、一部を置き換えたもの(シリコンとグラファイトの複合材にした形)であると示唆している1)

特徴的なウェアラブルデバイスWHOOP4.0

WHOOPは最近、ソフトバンクビジョンファンド2などから、約220億円の資金調達も実施しており、非常に注目されているフィットネス領域のベンチャー企業だ。

参考:デジタルフィットネスのWHOOPがソフトバンクビジョンファンド2等から約220億円の資金を調達

参考:デジタルフィットネスのWHOOPがスポーツテックのPUSHを買収

同社のデバイスは、毎日の回復、緊張、睡眠のバランスをとることで、最適なトレーニングを行い、パフォーマンスを向上させることができる、という考え方に基づいて設計されている。デバイスで計測された生体データを元に、ユーザーはアプリを通して、翌日希望のパフォーマンスレベルに到達するための必要な睡眠の量を提示し、どの程度リカバリーができているかを提示し、1日の緊張度合い・トレーニング強度がどの程度だったかを教えてくれる。

WHOOP4.0自体も非常に特徴的なウェアラブルデバイスとなっている。

センサーには、5つのLED(3つの緑、1つの赤、1つの赤外線)、4つのフォトダイオード、正確な心拍数測定を提供する高度なアルゴリズムが含まれるようになった。例えばFitbitは2つのLED、Apple Watch Series6はLEDは4つとなっている。一般に、こうしたウェアラブルデバイスはPPG(フォトプレチスモグラフィー)という手法で心拍数などの生体センシングを行っており、複数のLEDの波長帯を組み合わせてアルゴリズムで解析することで検出精度を高めたり、様々なパラメーターを測定できるようになる。医療機器グレードのスマートウォッチデバイスを開発するBiobeatなどはLEDを8個使っている。フィットネス領域のデバイスで、5つのLED/4つのフォトダイオードが搭載されるというのはかなり珍しい。

そしてWHOOPのデバイスは心拍数や安静時心拍数、呼吸数だけでなく、血中酸素飽和度、心拍変動も測定することができる。今回の4.0では皮膚温度センサーも搭載し、装着部の皮膚温度も測定可能だ。

WHOOPの共同創設者兼CTOであるJohn Capodilupo氏はこう述べている。

「ウェアラブル技術の設計を進める上での最大の障壁の1つは、利用可能なバッテリー技術の重量とサイズです。Silaによって、すべてが変わりました。WHOOP4.0を以前のバージョンから変換し、バッテリーのパフォーマンスを犠牲にすることなく、新しい機能をロードすることができました。」

 

SilaのHPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
ついにSila Nanotechnologiesのシリコン負極材がウェアラブルで実用化しました。まだ一部のグラファイトを置き換えたのみであり、やはり本格的にシリコン負極に代替するにはまだ技術的なハードルがあることを感じさせます。自動車分野でもカーボン負極にシリコンを混ぜる取り組みはすでにされており、シリコンベース負極材の活用が徐々に始まっています。

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参考文献:

1) Lithium-ion batteries just made a big leap in a tiny product, MIT Technology Review, September 8, 2021(リンクはこちら