米国半導体大手のIntel(インテル)および傘下のイスラエル企業Mobileye(モービルアイ)が、IAAモビリティ2021の基調講演で量産グレードのロボタクシーや、2022年からドイツのミュンヘンでロボタクシーの試験サービスをSixt SEと始めること等の最新の取り組みを発表した。

量産グレードのロボタクシー

今回Intel・Mobileyeの基調講演で発表があったのは、まずは量産グレードのロボタクシーだ。自動運転レベル4の車両であり、2022年からイスラエルのテルアビブとドイツのミュンヘンで、実際に商用の無人ライドヘイリングサービスとして利用される。

MoovitAVモビリティサービスブランドの元で運用されるMobileyeの自動運転車
(画像クレジット:Mobileye, an Intel Company)

講演内容と同社の発表内容から、いくつか注目ポイントをピックアップしよう。

Mobileye Drive(自動運転システム)

今回発表された量産グレードのロボタクシーは、同社の自動運転システムMobileye Driveを搭載、これは3つの機能モジュールによって構成される。

  1. Road Experience Management™(REM):マッピングテクノロジー
  2. Responsibility-Sensitive Safety(RSS):ルールベースの運転ポリシー
  3. True Redundancy™:2つの冗長なセンシングサブシステムを組み合わせ

Mobileyeは上記のMobileye Driveをプラットフォームとして展開しようとしている。システム内容としてはこれまでのMobileyeの発表から既知情報ではあるが、ロボタクシー車両に適用されたことを正式に発表したのはこれが初めてとなる。

クラウドソーシング方式で更新するHDマップ技術

まず、1つ目のマッピングテクノロジーであるが、これは自動運転レベル3以上を実現しようとすると非常に重要な機能となる。特にロボタクシーにおいては都市部を広範にカバーしつつ、リアルタイムにデータを低コストで更新していくことが求められる。Mobileyeは今回の講演でも「Maps are like gold(地図は金のようです)」と発言しており、その重要性について強調する。

MobileyeはこのリアルタイムでのHDマップの更新・メンテナンスのために、クラウドソーシングというアプローチを取る。MobileyeのシステムをADASとして搭載している車両はすでに数多く走っており、それらの車両が通行した道路のレーンやランドマークなどのデータを道路セグメントデータ(RSD)と呼ばれる小さなカプセルにパックし、クラウド上のサーバーへ送信していく。

ルールベースの運転ポリシーRSS

そして2つ目のResponsibility-Sensitive Safety(RSS)はルールベースの運転ポリシーを実現する。自動運転走行は、実際には国によって求められる安全基準と運転ルールが異なることから、上記のシステム構成をベースとして固定しながら、国によって調整しているということであった。「我々は消費者の期待と、交通状況のバランスを見なければなりません。」と講演で述べている。「ミュンヘンでの走り方と、エルサレム、インド、東京での走り方は違います。」

そしてMobileye(Intelも)は、この安全基準のスタンダード作りを業界で主導しようとしている。2020年からIEEE(米国電気電子技術者協会)P2846で標準化作業を始めており、講演にはその標準化WGの責任者を務めるIntelのJack Weast氏が登場する。Jack氏はこのiEEE2846でどのような標準化が議論され、定められているかの例を発表した。

RSSルールとして規定されるいくつかの自動運転の安全性に関するガイドラインが決められている。例えばRSSルールNo.4では、自動運転車が走行中に横断歩道に出くわし、中央を走行している際に、右車線の横断歩道手前に1台の車両が止まっているケースを想定する。このようなケースでは「自動運転車が右前方に止まっている車両の影に歩行者がいる可能性があることを想定する必要がある」ことを規定している。そして、車両の影から出てくる歩行者の歩く速度(例では2km/h)を踏まえて減速・停止し、歩行者が安全に横断歩道を渡れるようにする。

RSS No.4の事例

このように、RSSルールとしてiEEE2846では様々な走行シーンが想定され、そのシーンごとの車両が行うべき判断や動きを規定している。

そして、こうした自動運転システムの標準化においてドイツが先駆者としてリードし、ドイツから欧州全体に広げていくことを楽しみにしている、と締めくくる。

LiDARとレーダーも活用、システムは二段構成

Mobileyeはこれまで複数のHDカメラを搭載した、ビジョンベースでの自動運転システムを開発してきた。CESなどでもLiDARやレーダー無しのカメラのみでの都市内の自動運転走行をデモでアピールしてきた。実際に講演の中でも、同社のビジョンベースの自動運転システムを「レベル2+」として紹介している。

一方で、今回の量産グレードのロボタクシーで自動運転レベル4を実装するにあたり、MobileyeはルーフトップにLiDARセンサーを搭載した。メーカーはMobileyeが2020年に提携して共同開発を行うことを発表していたLuminar製だ。なお、Luminarは当時、Mobileyeに量産時に1台1,000$未満でLiDARを供給することを明言していた。

LuminarのLiDAR技術についてはこちらである程度整理しているので、詳細を知りたい方はご参考。

参考:自動運転ベンチャーのPony.aiがLuminarのLiDAR搭載に向けた提携を発表

また、詳しくは紹介されていないが、レーダーも搭載している。そのため、カメラ・LiDAR・レーダーという自動運転に重要な3種のセンサを搭載したものとなっている。

そして、自動運転のセンサシステムは2つのサブシステムからなる。1つ目のレイヤーでは11個のHDカメラから得られる情報を元に処理され、そして2つ目のレイヤーではLiDAR・レーダーの情報を処理している。この2つのサブセンサシステムは、冗長性を持たせるためにそれぞれが独立しているという。

(補足)なお、最終的に車両の制御において2つのレイヤーがどのように作用するのかについては講演では触れられていない。

また、興味深いことに、中国の吉利集団傘下のプレミアム電気自動車(EV)ブランドZEEKRに、MobileyeがADASを提供した新しい車種が今年後半にローンチされること、そしてこの車種には、ロボタクシーのサブセンサシステムレイヤー1のカメラベースのシステムが使われていることに触れている。このように、カメラベースの知覚システムとLiDAR/Radarの知覚システムを分けることで、モジュールとして他の車両に適用することができるのも、独立したサブシステムにしているメリットであるとしている。

2022年から始まるミュンヘンでのロボタクシー実証

冒頭述べたように、今回の基調講演でMobileyeは、ドイツに本社を置くモビリティサービスの大手国際プロバイダーであるSIXT SEと提携し、ドイツのミュンヘンで2022年からロボタクシーの実証を行う。

SIXTは、この10年の後半(2020年代後半)に、ドイツだけでなく、ヨーロッパ諸国全体でドライバーレスのライドシェアリングサービスを拡大することを目指している。SIXTアプリ、またはインテルが2020年に買収したMoovitのアプリを介してロボタクシーサービスにアクセスできるようになるという。

ドイツでは最近、特定条件下で完全自動運転が可能な「レベル4」の自動運転車を公道で走れるようにする法案が可決しており、ドイツでの公道の無人運転が許可されることになる。自動運転車両は規制当局の承認を得て、テストから商用運転に移行していく。

 


世界のロボタクシーの動向やビジネスモデルに関するレビューなどについて特集しています。興味のある方はこちら。
参考:(特集) 社会実装が始まる世界のロボタクシー市場動向


ー 技術アナリストの目 -
ドイツは自動運転レベル4の公道走行を可能にする法案の可決に見られるように、明確に、この自動運転領域を国として世界で牽引していく意図が見られ、来年ついにロボタクシーサービスの実証が都市部で実施されることになります。ただし、ロボタクシーのビジネスモデルについては不透明な部分も多く、まだまだ実証の域を出ないでしょう。ロボタクシーのビジネスモデルについてはどこかで別の記事で特集したいと思います。

【世界の自動運転システム・センサー技術の動向に関心がある方】

世界の自動運転システム・センサー技術などの定点観測レポートや、技術動向調査などに興味がある方はこちらも参考。

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