米国の国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)が、この8月に、全ての車両に衝突回避機能とコネクテッドカー技術を搭載することを、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)へ要求していることを発表した。

交通事故の多くがドライバーのミスや不適切な意思決定が原因

米国では2020年に38,000人以上が交通事故によって命を落としたという(初期の推計の結果)。この交通事故の多くがドライバーのミスや不適切な意思決定(障害、注意散漫、または疲労感のある状態でのスピード違反または運転)が原因であると、NTSBは述べている。

なお、米国道路安全保険協会によると1)、車両に前方衝突警告と自動緊急ブレーキシステムが搭載されている場合に防止できると推定される追突衝突は全体の50%にも上るという。

衝突防止機能とコネクテッドカー技術

これらの交通事故を無くすために、NTSBは、2021〜2022年の安全性向上の最も望まれるリスト(Most Wanted List)に「衝突防止とコネクテッドカー技術を全ての車両に搭載すること」を掲げている。

NTSBは、国道交通安全局(NHTSA)が、衝突回避システムとコネクテッドカー技術の包括的なパフォーマンス基準と義務を策定する必要があり、NHTSAに衝突回避システムの評価を、新車アセスメントプログラム(NCAP)に組み込むよう要請している。

なお、これは乗用車だけでなく商用車も同様であると主張する。

そしてNTSBは、現在のNCAPは車両の耐衝撃性について、一般消費者に知らせるための効果的なツールであるものの、前方衝突警告や自動緊急ブレーキなどの衝突回避技術を評価していないことが課題であるとしている。

特に、衝突回避システムについてはすでにある程度実用化されているものの、V2Vの車車間通信による衝突防止技術についてはまだ一部でしか実用化しておらず、現時点でコネクテッドについて言及しているのは、かなり攻めた表現となっている。

NTSBは、コネクテッドカー技術専用の通信スペクトルを大幅に縮小するという連邦通信委員会(FCC)の最近の決定に対しても危機感を抱いており、NTSBの声明の中では「プログラム全体が危険にさらされています。」と明言している。

 


ー 技術アナリストの目 -
すでにADASで実用化されている衝突防止機能だけでなく、まだ本格的には実用化していないコネクテッドカーのV2Vにも言及しているあたり、かなり積極的なスタンスであり、かつ、V2Vの進展を阻害するコネクテッドカー技術専用の通信帯域を縮小するというFCCの決定にかなりの危機感を抱いていることを感じ取れます。そうしたこともあって、このタイミングからコネクテッド技術の有用性について声を挙げているのだと想定されます。V2Vは多くのコネクテッドカーが走行している状態でこそ意味があるので、少し息の長い話にはなりますが、こうした規制面からも注目したいところです。

【世界のV2X技術に興味がある方】

世界のV2Xに関する実証プロジェクトや、規制動向、先端技術を開発するOEMやベンチャー企業の取り組みなどに興味がある方はこちらも参考。

詳細:先端技術調査・リサーチはこちら


参考文献:

1)  Require Collision-Avoidance and Connected-Vehicle Technologies on all Vehicles, Most Wanted List, NTSB(リンクはこちら