硫化物系電解質を使った全固体リチウム金属電池を開発しているSolid Powerが、ニッケル・コバルトを含まない新型の全固体電池の開発で、最大12.5m$(約14億円)の資金の支援を受けることが、10月1日に発表された。

ナノスケール二硫化鉄(FeS2)正極による全固体電池

今回開発に取り組む電池は、ナノスケール二硫化鉄(FeS2)正極を使った全固体電池となっている。開発期間において、Solid Powerはメリーランド大学と協力して開発を行うという。

この二硫化鉄正極であるが、研究レベルではリチウムイオン電池やナトリウムイオン電池での正極材として研究されている例があり、例えば産業技術総合研究所の論文では、作動電位が低い(~1.4V)ことと、約890mAh/gの理論容量を持つことが示されている一方で、有機電解液を使うセルではサイクル劣化が大きい課題があることも指摘されている1)

Solid Powerは、このFeS2を使った電池セルは、次世代の高度なカソード配合を活用しており、カソード活物質のコストを90%以上削減でき、またエネルギー密度は500Wh/kgのターゲットを超える可能性が期待できるとしている。

米国国家情報長官傘下のプログラム

この資金助成は、米国の政府機関傘下にあるIntelligence Advanced Research Projects Activity(IARPA)からのもので、「Robust Energy Sources for Intelligence Logistics in Extreme Novel and Challenging Environments(RESILIENCE)」というプロジェクトによる研究開発への助成の一環となっている。

直訳すると、「極端に新規かつチャレンジングな環境下におけるインテリジェンスロジスティクスのためのロバストなエネルギー源」に関する研究開発に資金を支援するもの。こうした環境下において、Solid Powerの二硫化鉄(FeS2)正極の全固体電池の開発が採択されたということになる。

複数年で、マルチフェーズでの契約となり、Solid Powerはプロジェクト完了までに最大12.5m$の資金を受けることができる。

「Solid Powerの目的は、高エネルギー密度、高電力密度、長いカレンダー寿命、静かな動作、および極端な環境条件に対する堅牢性に対するインテリジェンスアプリケーションのニーズを満たす多層セルを製造することです。」とSolid Powerは述べている。

 


ー 技術アナリストの目 -
これまでSolid Powerから公開されていた技術ロードマップには載っていない技術開発テーマであり、電気自動車向けの開発に注力している同社の戦略からはやや外れる動きです。EV向けのセルのSOPが2026年(シリコンアノード)・27年(リチウム金属アノード)と計画されているため、かなり先であることから、今回の開発を通して特殊用途の電池でつなぎのマネタイズをするような動きなのでしょうか。

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参考文献:

1) 次世代型リチウム二次電池用金属硫化物系複合正極材料の構造解析に関する研究(1), Hiroyuki Kageyama, Tomonari Takeuchi, Yasuhiro Inadaら, 独立行政法人産業技術総合研究所, 立命館大学, 立命館大学SRセンター(リンクはこちら