自動運転トラックは、近年大きな課題となっている慢性的なドライバー不足やドライバーの労働環境の改善にもつながる、物流業界における変革の一手として期待されている。

自動運転トラックの技術開発は、国内はもとより海外において激しい競争が繰り広げられており、多くの企業が参入している。

参入するプレーヤーは大きく2つに分けられる。1つは車両本体や安全システムなどで多くの実績をもつ大手トラックメーカーであり、もう1つが自動運転トラックの頭脳ともいえる自動運転システムなどの開発を手掛ける新興企業である。

ここでは、海外における自動運転トラック開発の最新動向について2部に分けて解説する。前半では、大手トラックメーカーを代表するダイムラー・トラックと、ボルボ・トラックの2社の動向について詳しく解説していく。

ダイムラー:デュアルトラック戦略で自動運転トラックを開発

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商用車の最大手メーカーであるダイムラー・トラックは、自動運転トラックの実用化に向けた技術開発をリードするプレーヤーの1つである。

SAEレベル4の自動運転実用化を狙う

ダイムラーは、既に、アクティブ・ドライブ・アシスト(Mercedes-Benz Actrosに搭載)と、アクティブ・レーン・アシスト(Freightliner Cascadiaに搭載)を備えたDetroit Assuarance5.0とによって、部分自動運転機能(SAE自動運転レベル2)を搭載した車両を量産しており、SAE自動運転レベル4の実用化を次なる目標として掲げている。

そのためにダイムラーは、SAEレベル4の自動運転に最適な拡張性の高い自動運転プラットフォームを開発している。

レベル4対応のプラットフォームでは、安全で信頼性の高い運用の実現を目的としており、これに必要な冗長システムも開発中である。冗長システムの主要な骨格をなすのは、ブレーキシステム、ステアリングシステム、低電圧電源ネット、ネットワーク通信の4つであり、いずれかに障害が発生した場合でも、レベル4の車両はバックアップシステムを監視、評価、展開して、トラックを安全に制御することができる。

また、このレベル4対応のプラットフォームは、同社のトラック車両「Freightliner Cascadia」をベースに構築されており、自動運転ソフトウェア、ハードウェア、コンピューティングの統合に最適となるように設計されている。

ダイムラーの自動運転トラックの心臓部ともいえる自動運転ソフトウェアを支えるのが、同社の独立子会社であるTorc Robotics(以下、Torc)と、Googleなどを傘下に収めるAlphabetの子会社であるWaymoの2社である。ダイムラーは、これをデュアルトラック戦略として、それぞれのパートナーと自動運転トラックの開発を進めている

Torcとの自動運転トラック開発

まずは、Torcとのトラック開発について見ていこう。

Torcは、2007年の創業以来、商用車の自律型ソリューションの開発をリードする存在であり、2019年の買収によりダイムラーグループの傘下に入った。Torcは、自動運転ソフトウェアと統合ソリューションを提供しており、ダイムラーの開発中の自動運転トラックにも搭載されている。

Torcが特に力を入れているのが、貨物配送センターや、移動拠点、出荷ヤードなどの高速道路上でのハブからハブへの貨物輸送をより単純なルートで実現する自動運転トラックの開発である。Torcは、このミドルマイル向けのソリューションを最初のターゲットとしており、ダイムラーとのトラック開発においても反映されていくとみられる。

その共同開発は、2019年に米国バージニア州でのSAE自動運転レベル4に対応する自動運転テストを皮切りに本格化させている。またTorcは、2022年にドイツ・シュトゥットガルトに技術開発センターを開設し、ダイムラー トラックとの連携により、仮想ドライバー、センシング、コンピューター ハードウェア、冗長シャーシを含む製品スタック全体を最適化し、スケーラブルで収益性の高い自動運転製品を発売する最初の企業となると述べている。

ダイムラー社は、2022年8月にTorcのCEOを独自に任命することを発表した。ダイムラー社主導の下でTorcの持つ自動運転技術の開発をさらに加速させていく狙いがあるものとみられる。

Waymoとの自動運転トラック開発

一方、Waymoとの共同開発も特徴的なものとなっている。

Waymoは、自動運転システム「Waymo Driver」を10年以上にわたって開発し、自動運転の技術開発をリードする存在である。

両社は、SAE自動運転レベル4の技術を展開させるため、広範でグローバルな戦略的パートナーシップを結んでいる。両社が最初に取り組んだのが、Waymoの自動運転システムと、ダイムラーの「Freightliner Cascadia」とを組み合わせた自動運転トラックの構築である。

このトラック車両では、Waymo Via(ウェイモの自動運転トラックによる輸送サービス)用の独自の冗長シャーシが開発され、「Waymo Driver」と統合できる仕様になるなど、Waymoとの連携を前提とした特別な設計が施されている。

また、前述のダイムラーの冗長システムの開発においては、Waymo Viaによって1500以上の新しい独自の要件が定義され、車両開発プロセスでこれらの要件を開発し、実装している。

具体的な例としては、空気圧ブレーキシステムの動作障害への対応として、開発中のレベル4車両には、プライマリシステムとセカンダリシステムの2つの電子制御ユニット(ECU)が使用されており、電子的な冗長性を高められている。この2つのECUを組み合わせることによって、完全なブレーキ性能を確保し、一方のシステムが正しく動作していない場合でも最小限のリスク操作を安全に実行することができる。

また別の例としては、ステアリングシステムを強化するためにサーボモーターを2つ搭載する試みも行われている。このような構成とすることで、一方のサーボモーターで電子的あるいは油圧的な故障が発生した場合でも、バックアップのサーボモーターが自動運転システムから要求されたステアリング角も受け取り、それに応じて反応することができる。

このように主要システムにおけるエラーが生じた場合でも、バックアップできる仕組みを構築することで自動運転トラックの安全性が高められることになる。

ダイムラーとWaymoは、フリート顧客の交通安全と効率性を向上させることを共通の目標として掲げている。両社は、前述の冗長システムとWaymo Driverを組み合わせた自動運転トラックをまずは米国向けに提供し、その後他の世界市場やブランドへの拡大を目指している。

ボルボ:自律輸送ソリューション部門を立ち上げ、自動運転開発を本格化

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ボルボ・トラックも独自の戦略で自動運転トラックの技術開発をリードするプレーヤーの1つである。

NVIDIAと共同開発契約を締結

ボルボは、2019年に、NVIDAと共同開発契約を結び、NVIDIAのエンドツーエンドの人工知能プラットフォームをトレーニング、シミュレーション、車載コンピューティングに活用することで、自動運転トラック向けの高度なAIプラットフォームを開発することを発表している。

完成するシステムでは、センサーの処理、認識、地図の位置特定、経路計画のための NVIDIAの完全なソフトウェアスタック上に構築され、貨物輸送、ゴミとリサイクルの収集、公共交通機関、建設、鉱業、林業など、幅広い自動運転アプリケーションを可能とするソリューションが提供される。

この共同開発では、柔軟で拡張性の高い自動運転システムの開発に焦点を当てており、最初はパイロット運用から始められ、後にボルボグループの商用トラックに適用される予定としている。

自律輸送ソリューション(TaaS)部門を立ち上げ

一方でボルボは、2020年1月に自律輸送ソリューションの新たな事業分野として「Volvo Autonomous Solutions (VAS)」を立ち上げている。

VASは、自動運転技術の提供だけではなく、エコシステム全体を構築し、ソリューションをパッケージ化することにより、TaaS(Transport as a Service)として顧客にサービス(自律輸送ソリューション)を提供することを事業の目的としている。

この自律輸送ソリューションは、自動運転技術とコネクティビティ技術に基づいており、柔軟性、配送精度および生産性の向上に貢献することで顧客に新たな価値を生み出すことを狙いとしている。

具体的には、採掘場や産業廃棄物処理場のような積込み、輸送、投棄といった比較的単純な反復作業を行う現場や、港や物流センターなどでの高精度の単距離輸送が要求される現場、高速道路上のハブ間輸送を対象とした自律輸送ソリューションである。

VASは、2022年5月に、荷主、輸送業者、物流サービス業者、貨物ブローカーという4つの主要顧客セグメントを対象にした、新しいハブ間の自律輸送ソリューションを提供することを発表している。これらのソリューションは、北米で高まる貨物輸送の需要に対応しながら、各セグメントにおけるビジネスニーズに合わせて構成されるとしている。

この発表で注目されたのが、グローバルな物流プロバイダーであるDHLサプライチェーンと提携し、同社サービスにハブ間自律輸送ソリューションを試験的に導入すると発表されたことである。VASにとってハブ間ソリューションを導入する初めてのケースとなる。

Auroraとの自動運転セミトラック開発

今回の提携で使用される自動運転トラックの技術開発を支えるのが、自動運転技術のスタートアップであるAuroraである。両社は、2021年3月に、北米向けの自動運転セミトラックを共同開発するパートナーシップを結んでいる。両社は、自動運転トラックを実現するための技術ソリューションとして、高速道路上での利用に向けた統合的で拡張性の高い自律輸送能力のための完全なTaaSソリューションの開発を目指すとしている。

ボルボは、2021年9月に、Auroraの自動運転システム「Aurora Driver」を搭載した、同社のフラッグシップ長距離モデルのプロトタイプ車両を発表しており、今回のDHLサービスへの試験導入において実戦投入されるとみられる。

ボルボの自動運転トラックの実現においてAurora Driverとともに欠かせないのが、ボルボの安全システムである。同社の安全システムには、長年にわたり技術開発された要素が盛り込まれており、特にボルボダイナミックステアリング(VDS)や自律変速機(I-Shift)など既存の車両でも採用される実績ある技術が搭載されている。これらの安全技術は、新しい自動運転トラックにおいてもそのコアシステムに冗長な安全ベースのソリューションを構築し、安全かつ確実な運用を実現することができる。

VASが今回提携を発表したDHLは4つのセグメントのうちの1つである物流プロバイダーであり、他のセグメントとの提携についても今後発表されていくとみられる。

また、ボルボは、VASを自律輸送ソリューションサービスの単一の窓口とするとしており、VASを活動の軸として、自動運転トラックの今後の技術開発が注目される。

まとめ

ここでは、トラックメーカー大手であるダイムラー・トラックとボルボ・トラックの2社を取り上げたが、他のトラックメーカーも含め、自動運転システム開発企業や物流企業と提携しながら、自動運転トラックの実用化に向けて激しい開発競争を繰り広げている。

特にトラックメーカーにとっては、自動運転トラックの命ともいえる自動運転システムを開発するパートナーの選択が実用化に向けた重要なポイントである。この記事で紹介したダイムラーのデュアルトラック戦略のように、有力な自動運転システム開発企業との提携が今後も活発化していくとみられる。

各社とも、2020年代半ば以降でのSAEレベル4の自動運転トラックの投入に向けて開発を行っており、今後の動きが注目される。