今年もカリフォルニア州のDMV(Department of Motor Vehicle)において、自動運転車の離脱レポート・走行距離レポートが発表された。各自動運転企業からカリフォルニア州に報告された内容を元に、自動運転の取り組みの一端が見えてくる。

今回はこの自動運転の離脱・走行距離レポートの内容について解説していく。

離脱レポート・マイレージレポートとは

カリフォルニア州では、公道での自動運転車両の走行を行う場合は、許可とともに走行結果のレポートを行うように義務付けており、現在、55社の企業がドライバー付きでの自動運転走行の認定を受けており、6社はドライバー無しの無人運転の許可を受けている。これらの企業は、走行した距離と自律モードから手動モードに切り替えた事象などを毎年、カリフォルニア州にDisengagement Reportとして報告を行っている。

今年は25社からの報告があった。

(補足)ドライバー無しの自動運転の許可を受けている6社は以下

  • AUTOX TECHNOLOGIES INC
  • BAIDU USA LLC
  • Cruise LLC
  • NURO, INC
  • WAYMO LLC
  • ZOOX, INC

報告は自動運転で走行した各車両における毎月の距離(単位はマイル)と、離脱数、及び離脱がどのような状況で起こったのかのレポートとなっている。この離脱数というのは、日本語で書くとあまりピンと来ないが、自動運転から手動運転に切り替わったら離脱1回とカウントする。

また、DMVに報告が義務付けられている自動運転システムはSAE定義のレベル3以上の走行となっている。

自動運転の走行距離と離脱数から見えること

なお、このDMVが公開しているレポートは自動運転のある一面を切り取ったにすぎず、必ずしも自動運転各社の優劣をこれだけで結論づけることは決してできない点は注意だ。離脱の定義は厳密には各社によって異なる上、走行の実験環境も異なる。また、離脱レポートの詳細を読み込み、自動→手動の切り替わりの事象を見てみると、必ずしも自動運転車両の運行により手動に切り替わったのではなく、むしろ相対する車両や歩行者による不注意などが原因であることもあり、離脱数が多いからといって自動運転システムが悪いと決定づけるわけでは無い点も注意したい(ただし大きな傾向は掴めると考えている)。

2020年は2019年に比べて自動運転の走行距離は大きく減少

2020年のカリフォルニア州における自律走行車両の走行距離は、195万マイル(313万km)となった。これは2019年の走行距離であった285万マイル(458万km)に比べると、32%の減少となっており、おおよそ2018年時点の走行距離と同等であった。

この要因については、自動運転開発が減退したのではなく、主にはCOVID-19の影響により2020年4月あたりから実験がほぼストップしていたことが挙げられる。4月はほとんど走行実験が行われていなかったことが以下の月別走行距離データからもわかる。

自律走行車両の月別走行距離合計(2020年、2019年)

DMV公開データより作成

ただし、この全体の走行距離の減少は、実際には大きな割合を占めるWaymoが実験を停止していたことが影響している(実に全体の減少距離90万マイルの内、82.5万マイルがWaymoの減少分)。

企業別の自律走行距離(2020年、2019年)

DMV公開データより作成
2020年の走行距離が長い順で並んでいる

おおよそ4つの群に分けることができる自動運転テストの状況

次に、縦軸に自動運転での走行距離を取り、横軸に1離脱までの走行距離を取って各社をプロットしてみると以下のようになる。大まかには、4つの群に分けることができそうだ。(なお、グラフは対数となっているため、要注意)

カリフォルニア州での自動運転実験データ各社のプロット(2020年)

DMVデータより作成

第一群:走行距離10万マイル以上、1離脱あたり距離1万マイル以上

Cruise, Waymo, Pony.ai

この群は走行距離、1離脱あたりの距離も、両方で他社を大きく引き離す、カリフォルニア州の自動運転走行実験を牽引している群となっている。走行距離は10万マイルを超えるが、離脱回数も非常に少なく、1回の離脱あたりの走行距離も1万マイル以上となるセグメントである。

第二群:走行距離1万マイル以上、1離脱あたり距離1000マイル以上

AutoX, ZooX, Nuro, WeRide, DiDi

この群は走行距離も1万マイル以上あり、1離脱あたりの走行距離も1,000マイルを超え、着実に走行実験の実績を積み重ねているセグメントだ。社会実装に向けた走行実験が本格的に始まっている層と見ることができる。

第三群:走行距離数千マイル以上、1離脱あたり距離100マイル以上

Lyft, Aurora, Apple, Gatik,(Mercedes)

走行実験は進むが、先行する群と比べると走行距離に対して離脱数は多いため、改善が必要であるように見えるセグメントだ。第三群と第二群の差は大きく、AppleやAuroraは走行距離は1万マイルを超えるものの、1離脱あたりの距離は145~330マイルだ。一方第二群になると例えばZooXは10万マイルを走行し、1離脱あたりの距離も1,600マイルとなり、その差は大きい。

第四群:走行距離数千マイル前後、1離脱あたり距離100マイル未満

NVIDIA, AImotive, Qualcomm, TRI, 日産等

現時点では走行距離が1万マイルには達しておらず、また1離脱あたりの距離もおおよそ100マイル未満となっており、まだまだ走行実験を重ねる必要があるセグメントだ。(ただし、何か特定の開発や機能検証の目的に絞って走行実験を小さく行っているだけの可能性もあるため注意)

まずは上記のように、カリフォルニア州での自動運転走行実験は、大きく4つくらいのセグメントに分けることができる。

各社の自動運転への取り組み状況のレビュー

それでは各社ごとにその自動運転への取り組みについての状況をレビューしていこう。

Cruise・Waymo:現時点で圧倒的に走行距離が多く、走行実験が進んでいる

走行距離
(2019)
走行距離
(2020)
離脱数
(2019)
離脱数
(2020)
距離/離脱数(2019)距離/離脱数(2020)
Cruise831,040770,049682712,22128,520
Waymo1,454,137628,8391102113,21929,945
DMVデータより作成

上記のグラフを見るとわかるように、現時点で圧倒的に走行距離が多いのはCruiseとWaymoとなっており、カリフォルニアにおける自動運転シーンを牽引していると言える。走行距離でも、1離脱数あたりの距離でも他社を圧倒しており、2019年と比較しても大きく改善してきていることが伺える。

今年、走行距離がトップになったのはGM子会社のCruiseとなっている。Cruiseはデータを見ると、Waymoのように完全に実験は止めず、4月も多少走行しつつ5月からある程度走行実験を軌道に戻していた。同社はコロナウイルス影響下で混乱にあった、食品・食料品調達の観点で、非接触型の自律フードデリバリーで同社の自動運転車両を活用。走行距離の55%がこのフードデリバリーにあたると発表している。Cruiseは2020年に、77.0万マイルの走行を記録した。

最近のCruiseへのマイクロソフトの出資についてはこちらも参考:

Waymoであるが、CES2021でもベストオブイノベーションを受賞した第五世代の自動運転システムであるWaymo Driverは、よりその自動運転システムを洗練させている。300mの距離を360°の視野角でカバーする高精度LiDARと、高いダイナミックレンジと熱安定性を備えたビジョンシステムカメラ、そしてそれらを保管する長距離次世代レーダーを備える。2019年は走行距離で他社を圧倒していたWaymoであるが、2020年はコロナウイルスの影響により、4月・5月は走行実験がストップしており、DMVのレポートが対象としている2020年11月においても、昨年の30-50%水準で走行距離が推移している。しかし、それでも走行距離はCruiseに次ぐ2番目に大きいものとなっており、62.8万マイルを記録している。

中国勢のPony.ai、AutoX、WeRideは順調に走行距離を上乗せ

走行距離
(2019)
走行距離
(2020)
離脱数
(2019)
離脱数
(2020)
距離/離脱数(2019)距離/離脱数(2020)
Pony.ai174,845225,49627216,47610,738
AutoX32,05440,7342310,68520,367
WeRide5,91713,0143921526,507
Baidu108,300N.A.6N.A.18,050N.A.
DiDiN.A.10,401N.A.2N.A.5,201
DMVデータより作成

この数か月、自動運転業界において積極的な資金調達が相次いだ中国勢のPony.ai、AutoX、WeRideは2019年に比べて順調に走行距離を上乗せしてきた。特に1離脱あたりの距離(マイル)については、各社大きく数字を向上させていることがわかる。Pony.aiはトヨタが2020年2月に400m$(約420億円)もの巨額の資金を投入しており、カリフォルニア州での走行距離は中国勢の中でも群を抜いている。

なお、今年はBaiduは報告を行わなかった。Baiduは2019年は10万マイルを超える走行と、非常に少ない離脱数から、そのシステムの有効性を証明したと言われており、2021年1月にはカリフォルニア州での無人での自律走行も許可された(同州ではこれで6社目となる)。2020年はカリフォルニア州で自律走行を行わなかったが、今後、無人での自律走行実験を開始すると見られ、現在はその準備を行っていると考えられる。

2020年は昨年は見られなかった中国の配車サービスのDiDi(滴滴出行)R&Dが報告を行っており、初年度から1万マイルを超える走行距離を達成している。DiDiは2030年までに配車サービスにおける自動運転車両を100万台用意することを発表しており、現在、自動運転の社会実装に非常に積極的となっている。

Pony.ai、AutoX、WeRideの最近の動向はこちらも参考:

Nuro・ZooX:Nuroは離脱率の改善、ZooXは走行距離10万マイル入り

走行距離
(2019)
走行距離
(2020)
離脱数
(2019)
離脱数
(2020)
距離/離脱数(2019)距離/離脱数(2020)
Nuro68,76255,37034112,0225,034
ZooX67,015102,52142631,5961,627
DMVデータより作成

DMVに自動運転車両の報告を行っている中でも、この2社はやや特殊だ。いわゆる通常の乗用車で自律走行を行っている他の企業とは異なり、Nuroは食品や医薬品などのモノのデリバリーに特化したドライバー無しが前提の小型車両であり、ZooXはロボタクシーに特化した運転席のない車両となっている。両社ともに、運転席が無く、完全自動運転を前提にした車両設計となっていることが共通している。

Nuroは昨年11月に500m$もの資金調達を行ったことで話題となった。
(以下参考記事)

Nuroは着実に走行距離を積み重ねており、2020年12月にはカリフォルニア州でのDeployment(商業サービス化のための車両配備)が許可された。今後は同州では日用品デリバリーの商用サービスとして自律走行の距離を拡大させていくと想定される。

ZooXはその車両が一般に公開されたのが昨年末であったが、カリフォルニア州では以前からドライバーありの状態での自律走行が認められており、走行実験を続けてきた。昨年にドライバー無しの状態での走行が許可され、2020年12月にはその運転席のない自律走行車両が一般公開された。

Apple:2020年は走行距離が増加も、まだ第二群には遠く及ばない

項目走行距離
(2019)
走行距離
(2020)
離脱数
(2019)
離脱数
(2020)
距離/離脱数(2019)距離/離脱数(2020)
Apple7,54418,80564130118145
DMVデータより作成

最近、プロジェクトTitanとしてAppleの電気自動運転車の開発が大きな話題となっているが、以前よりAppleはカリフォルニアで自動運転の走行実験を行っている。

2019年には走行距離が7,544マイル、離脱数が64回、1離脱あたり118マイルだった同社は、2020年には走行距離を倍以上の18,805マイルとなり、離脱数が130回、1離脱あたり145マイルとなった。

昨年に比べて走行距離を大きく伸ばし、離脱あたりの距離も改善してきたAppleであるが、CruiseやWaymoなどにはまだ大きく及ばず、1離脱あたりの走行距離も他社と比べると数字的には優れたものではない。同社の自動運転の開発はまだ時間がかかると言われており、それがレポートの数値にも出ていることを感じさせる。

Tesla:Autopilotはあくまでレベル2のため報告不要というスタンス

走行距離
(2019)
走行距離
(2020)
離脱数
(2019)
離脱数
(2020)
距離/離脱数(2019)距離/離脱数(2020)
Tesla12N.A.0N.A.N.A.N.A.
DMVデータより作成

テスラは自律走行の許可自体は得ているが、ほとんどDMVに対して報告を行っていない。2019年にテスラはカリフォルニアの公道で、テスラのパロアルト本社周辺のルートで12.2マイルのデモ走行を行ったのみである。

自動運転の開発におけるテスラのスタンスは他の会社とは異なっている。テスラの自動運転に関する考え方は、2019年にDMVへ宛てたテスラのレターから読み取ることができる(ただしこれは恐らくリークされたものであるが、真偽は定かではない。しかし、この考え方は確かにテスラのものとして十分考えられるものだ)。

このレターによると、テスラはすでに数十万台の顧客を持っている点を最大限生かそうとしている。既存の顧客がテスラのAutopilotを活用することで、テスラは大量の匿名化された自動運転の走行データを取得することができ、「シャドウモード」の機能により、バックグラウンドでサイレントに新機能のテストを行う

また、あくまでテスラのAutopilotはSAEレベル2であり、すでに商用化されている「先進運転支援システム」というスタンスのため、その延長上で開発を行っている自動運転機能についても報告は不要というスタンスであることが読み取れる。

全体のまとめ

以上、カリフォルニア州の離脱・マイレージレポートについての全体像を整理してきた。改めて2020年のレポートの結果をまとめよう。

  1. 2020年はコロナウイルスの影響で2019年に比べると走行距離は減少(ただし、その減少要因はほぼWaymo)
  2. 走行距離と離脱1回あたりの距離から、カリフォルニア州における自動運転の走行実証の進捗はおおよそ4つのセグメントに分けられる
  3. 最も進む第一群はCruise、Waymo、Pony.aiの3社。他社を大きく引き離している
  4. 第二群はAutoX, ZooX, Nuro, WeRide, DiDiら。着実に走行実験の実績を積み重ねている
  5. 第三群以下は走行距離、または離脱1回あたりの距離の観点で第二群と大きな差がある

おおよそ上記のような結果だった。

とは言え、Aptivと現代自動車が支援するMotionalのように、カリフォルニアでは走行実験を行っていない企業もおり(Motionalは最近、100万マイルの走行距離を元にした安全性評価を外部企業に行ってもらい、その安全性にお墨付きを得たと発表している)、必ずしもこの結果だけで自動運転の優劣を断定することはできない。

しかし、世界中の自動運転企業が集まるカリフォルニアにおいて、走行実験が進む第一群と第二群は、やはり本格的な商用化に非常に近い企業と言うことができるだろう。


ー 技術アナリストの目 -
2020年はコロナウイルスの影響も大きく、一部を除いて全体的には4・5月は走行実験がストップしてしまった企業も多かったように思います。一方で、商用化が近い自動運転企業は着実に走行距離を積み重ねていたり、離脱1回あたりの距離が顕著に改善するなどの数字の伸びも見られ、商用化に向けてドライブをかけていると感じることができる結果でした。今年もすでに様々な動きがある自動運転業界ですが、引き続き定点観測をしていきながら、有益な情報をまとめて発信したいと思います。

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